カミュのムルソーに殺されたアラビア人の弟が、小説を書き始めた!
【カミュのムルソーに殺されたアラビア人の弟が、小説を書き始めた】
昨日は、アルジェリアの作家カメル・ダーウド氏の講演会に、飯田橋のアンスティテュ・フランセに行ってきました。かの小説「異邦人」の中で、主人公ムルソーによって、《太陽のギラつきが眩しかった》から殺されたアラビア人の弟の視点からという、面白い設定の彼の小説についてでした。
確かにカミュの小説の中では、アラビア人はほとんど名を持たず、極めて無機質に近く蠢くように書かれている印象がある。この度、ムルソーの引き金に因る死を遂げたアラビア人の弟が、人間として、しかも全世界にメッセージを伝えられる作家として口を開こうというのである。
《さぞや復讐心に富んだラジカルなメッセージの小説なのでは・・・?》
誰しも、一つの方向性としては思い描くストーリーではなかろうか? しかし、講演会のダーウド氏自身から語られた小説の中身は、復讐でもなく、メッセージの主張でもなく、ただひたすらイメージの積み重ね、と温厚な口調で述べられた。皆に肩透かしを喰らわせ、予想を裏切る展開とは、果たしていかに?
アルジェリアもさほど遠い国ではなくなりつつある。こうして、ママンの死にすら無関心な男の手によって殺された(かつて、無言の)人間の側から小説が発信されるのは、興味深い。